討論会「被爆75年 核兵器廃絶へ日本はいま何をすべきか」レポート



被爆75年となる広島原爆の日の前日である8月5日16時30分から、核兵器廃絶日本NGO連絡会の主催により、政府、国会議員、国連、市民社会の代表者らによる討論会「被爆75年 核兵器廃絶へ日本はいま何をすべきか」が、広島市内で行われました。

この討論会には、日本政府よりオンラインで尾身朝子外務大臣政務官、国会より9の政党および会派の代表者、国連から中満泉国連事務次長・軍縮担当上級代表が参加するとともに、市民社会から被爆者とジュネーブからオンラインで核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長が参加しました。

新型コロナウィルス感染症対策のため、この討論会は無聴衆行事とされましたが、その模様はオンラインのライブで一般公開され、約2100名の視聴がありました。また、13社の報道関係者の取材を受けるなど、この問題に対する関心の高さを示すものといえます。まずは、ここに重要な発言を紹介いたします(議事録は、後日このサイトで公開いたします。また、会議の映像はYouTubeで視聴可能です)。

討論会は、核兵器廃絶日本NGO連絡会共同世話人である川崎哲ICAN国際運営委員(ピースボート共同代表)の司会で行われました。第1部「現状と課題」では、最初に中満泉国連事務次長が、「安全保障環境は悪化の一途を辿っている、そして質的に非常に複雑になり変化をしている」と指摘したうえで、①安全保障は様々なツールからなり、軍縮はそのツールの1つであるという認識が必要であること、②対話と外交を通じた安全保障への復帰と日本の役割、③延期されたNPT再検討会議の成功への協力、④核兵器禁止条約との関係は日、日本が決めることだが、ドアを閉めることはせず、問題点を完全に共有しているという姿勢を示して欲しい、という4点について意見を述べました。

続いて、尾身朝子外務大臣政務官が発言。まず、「日本は唯一の戦争被爆国として核兵器のない世界の実現に向けた国際社会の取り組みをリードする使命を有しています。これは日本政府の確固たる方針です」と日本の基本姿勢を述べました。そのうえで、国際社会では、核軍縮の進め方を巡る対立があることを指摘したうえで、日本が核兵器国と非核兵器国の橋渡しに務めていくことを確認しました。また、核軍縮にとって被爆の実相への正確な認識が重要性であることを強調し、日本のこれまでの努力を紹介しました。日本のNPTへの具体的な取り組みについても言及しました。

最後に、ベアトリス・フィン事務局長が発言。被爆者による人類のための活動に誇りを持つべきである。核兵器禁止条約により明確な目標が定められている。日本の参画が必要であり、被爆者もそれを求めている。日本が条約に参加することで、一緒に進むことを期待する。パンデミックは、より強固な安全保障が必要であることを示している。賢明な安全保障が必要であり、核兵器を保有することはその反対である。また、核兵器禁止条約には、日米同盟があっても参加できると述べました。

第2部「各政党の立場と取り組み/国会議員より」では、各党からの参加者が発言しました。発言の概要は、以下の通りです。

公明党 山口那津男代表(参議院議員)

広島市内の旧陸軍被服支廠を訪問し、被爆の実相を実感した。2017年に核兵器禁止条約が採択され40カ国が批准した。発効を期待したい。公明党は、核兵器のない世界に向けて国際規範が形成されることを強く望む。核兵器禁止条約は、日本の国是である非核3原則を国際規範にしたもの。しかし、賛成する国と反対する国の溝が深まるばかりでは現実的な意味はない。核兵器国を巻き込んで実質的な核軍縮をすすめることが重要である。

自民党 平口洋被爆者救済と核兵器廃絶推進議員連盟事務局長(衆議院議員)

核兵器が実際に使用された時の阿鼻叫喚の様子、(広島では)1発の核兵器で10~15万人が亡くなった。唯一の戦争被爆国として、核兵器の廃絶には誠実に取り組むべきである。現実の問題として核兵器廃絶に最も大切なものはNPTであり、核兵器禁止条約については、やや時期尚早であり、反対という立場をとっている。

立憲民主党 枝野幸男代表(衆議院議員)

現状認識として、冷戦期よりも核戦争の脅威は高まっている。核兵器禁止条約は画期的な条約であるが、核の傘の下にあることを理由に日本政府は反対をしている。アメリカとの同盟を維持しながら条約参加に向けた具体的なロードマップを描く必要がある。どのような条件が整えば、批准に向かうことができるのか国会で議論する必要がある。

国民民主党 玉木雄一郎代表(衆議院議員)

本来であれば、日本は核なき世界に向けて先頭を切り取り組むべきである。しかし、残念ながら日本政府は核兵器禁止条約に後ろ向きである。条約は批准すべきであるが、様々な諸問題も解決していかなければならない。日本は、条約にオブザーバー参加をすべきである。すぐに締約国とならなくても、積極に関与すべきである。ネットの時代になり、特に若い人たちがネットでつながっている。だからこそ、過去起こったことの継承が非常に重要である。

日本維新の会 足立康史国会議員団幹事長代理(衆議院議員)

(核兵器の問題について)日本は何をすべきか国会では議論していない。国際的なアリーナで議論するまえに、日本はどうすべきか国会で議論すべきである。従来の議論では不十分である。ポストNPTの時代、新しい対話の場が必要。例えば、北朝鮮は核兵器を保有すると言っている。だから日本も持つべきだという意見も日本の中にはある。そう言う議論を避けてはいけない。

日本共産党 志位和夫委員長(衆議院議員)

パンデミックは、軍事力とりわけ核兵器が無益であることを示した。核兵器予算を削り、医療に回すべきである。核兵器廃絶には2つの努力が必要である。第1に、核兵器禁止条約の早期発効。それにより核兵器保有国を政治的、道義的に追い詰める。第2に、NPTでの前進を勝ち取る。NPT50周年を記念する共同コミュニケにあるように、核兵器保有国も賛成した誓約の履行を求めるべきだ。被爆75年にあたり政府は従来の態度を改め、核兵器禁止条約にサインすることを強く求める。政府は「黒い雨訴訟」での広島地裁の判決に控訴すべきではない。

社民党   福島みずほ党首(参議院議員)

核兵器禁止条約を批准することを求める。核抑止は幻想に過ぎない。対人地雷、クラスター弾の禁止には、それを保有する国に対して大きな効果があった。核兵器についても、条約の力で影響力を与えるべきだ。世論調査では、日本の72%の人々が核兵器禁止条約への参加に賛成している。核兵器禁止条約は、 被爆75年を迎える日本の政治の責任である。

れいわ新選組 舩後靖彦(参議院議員)

INFの失効、新STARTの延長の問題。核軍縮への努力は停滞している。核兵器禁止条約を発効させていく意義は高まっている。日本は率先して参加すべきだ。日米安保と条約参加は矛盾しない。核兵器禁止条約の批准を、野党の統一公約としてはどうか。我々が直面する脅威は、大国の見栄の張り合いではなく、気候変動、感染症に対する脅威である。

無所属 岡田克也(衆議院議員)

いまは、(核軍縮の)逆流を止めるべきである。日本は拡大核抑止のためにアメリカに何も言えない状況にある。バランスをとった核軍縮は抑止と矛盾しない。大統領選挙の結果によりアメリカの政策は変わりうる。その時に日本はどうするのか。核兵器禁止条約は単純に入れば良いと言うことではないが、大きな方向性は同じであるということを確認すべきだ。

第3部 「討論とまとめ」では、まず、田中煕巳・日本原水爆被害者団体協議会代表委員が発言。被爆を経験して以来、こうした兵器は2度と使われてはならないと思って生きてきた。しかし議論を聞いて、まだまだ壁は厚いと思った。核保有国からは、核兵器は使いたくない。だけど信頼関係がないという話をよく聞く。そうであるならば、まず信頼関係を作るべきである。安全保障は相手が悪いことをしてくることを考えるのではなく、どうやって一緒に良くするかを考えることである。その先頭に日本が立ってほしいと述べました。

このあと、中満事務次長、尾身外務大臣政務官、フィン事務局長が発言しました。尾身政務官は核兵器禁止条約に言及し、同条約は核兵器国や(核兵器に依存する)非核兵器国からも支持を得ていない。核兵器廃絶には、地道に現実な道筋が適切であり、核兵器禁止条約はこうしたアプローチと異なると言わざるを得ないと述べました。

最後に、司会を努めた川崎共同世話人は、核兵器禁止条約について政府は時期尚早という立場ではあったが、何らかの方向性を示す議論を国会の中で期待したいと述べました。

討論会の動画はこちらです↓

「核不拡散条約50周年を記念する共同コミュニケ」とその解説

2020年4月25日から5月22日までニューヨークの国連本部で開催予定であった2020年NPT再検討会議は、新コロナウイルスの影響により延期が決定されました。本年はNPT発効50周年ということもあり、5月19日に17カ国が共同して「核不拡散条約50周年を記念する共同コミュニケ」を発表しました。その内容は、NPTの50年を回顧し、今後のNPTの方向性を示すものとなっています。

一方、2020年3月10日には、NPTの核兵器国であるアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国は共同して「核不拡散条約50周年記念」と題する共同声明を発表しました。その内容は、核兵器国のNPTさらには核軍縮に対する考えを端的に示すものとなっています。

そこで、ここに共同コミュニケの仮訳を作成し、核兵器国の共同声明と比較しながらコメントしていきたいと思います。

まず、共同コミュニケは、マレーシアのリーダシップのもとアルジェリア、オーストリア、ブラジル、チリ、コスタリカ、エクアドル、エジプト、インドネシア、アイルランド、メキシコ、モロッコ、ニュージーランド、ナイジェリア、フィリピン、南アフリカ、タイにより作成されたものです。この17カ国はすべて、2017年7月7日の核兵器禁止条約の採択に賛成した国です。また、エジプトとモロッコを除く15カ国は核兵器禁止条約に署名しており、オーストリア、コスタリカ、エクアドル、メキシコ、ニュージーランド、南アフリアカ、タイの7カ国は、すでに批准を済ませています。なお、ニュージーランドは、この17カ国を「卓越した核軍縮支持者(prominent nuclear disarmament supporters)」と呼んでいます。次のNPT再検討会議では、この17カ国の動向に注目していく必要があると思います。

NPTの50年について共同コミュニケは、「NPTの歴史には課題がなかったわけではなく、今日再び困難な課題に直面している」として、NPTの過去そして現在に課題が存在していることを指摘します。現在の課題については具体的な言及は行っていませんが、アメリカのINFからの離脱、新STARTの失効、朝鮮民主主義人民共和国の核・ミサイル実験、イランの核開発疑惑などが含まれていると思われます。しかし、その一方で、NPTがこれまで果たしてきた役割や機能を、次のように高く評価しています。

「発効から50年が経過した現在も、NPTは国際の平和と安全に貢献する貴重な文書である。NPTは、地球規模の核軍縮及び核不拡散体制の礎石として、核兵器がもたらす人類の生存を脅かす脅威を取り除くために、核兵器の完全な撤廃に向けた地球規模の核軍縮の基礎を提供するとともに、核兵器がもたらす脅威及びその拡散を削減する国際的な努力の支えとなってきた。」

このように、これまでのNPTの役割や機能を高く評価する点は、核兵器国の共同声明も同様な立場に立っているといえます。

次に、今後のNPTについて共同コミュニケは、新たな提案を行うのではなく、NPTの条約義務とNPTの枠組みにおける合意を確認し、その履行を締約国に求めるという姿勢をとっていいます。まず、核兵器禁止条約の採択につながった「核兵器の非人道性」について、「2010年NPT再検討会議の最終文書に反映されているように、すべての締約国が核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道上の結末をもたらすことに懸念を表明したことを想起する」として、核兵器国も「核兵器の非人道性」に合意したことを確認します。しかし、核兵器国の共同宣言は、このことに言及していません。

また、「2000年NPT再検討会議で核兵器国は、核軍縮に至る自国の核軍備の完全撤廃の達成を明確に約束し、この点に関する進展を加速させることを約束した」ことも確認しました。このように核兵器国が核兵器廃絶を「明確に約束」したことは、NPTに歴史において重要な合意であり、それをこの機会に確認することは、非常に意味のあることになります。

というのも、共同コミュニケに先立ち発表された核兵器国の共同声明は「我々は、すべての人にとって損なわれることのない安全保障を伴う核兵器のない世界という究極の目標を支持します」と述べており、核兵器廃絶がNPT再検討会議で合意された「明確な約束」から「究極の目標」に後退しているように思われるからです。

さらに、2020年はNPT発効50周年であると同時に、無期限延長25周年であることから、「条約の無期限延長は、いかなる意味においても核兵器の無期限の保持を正当化するものとして解釈され得ないことも強調されるべきである」とも指摘しました。

共同コミュニケが条約義務の履行を超える提案を行っているのは、「NPTの50年は、この条約の普遍化の重要性を想起させる。NPTに加盟していないすべての国は、これ以上の遅延又は条件を付けることなしに、非核兵器国として条約に加盟すべきである」と述べる部分です。NPTの枠外には、核兵器を保有しているインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮があり、これらの国にはNPTの条約義務は及ばないからです。

最後に、共同コミュニケは、次のように締めくくられています。

「今こそ締約国は、言葉を明確かつ合意された基準及び期限に裏付けられた具体的な行動に移す時である。こうした努力によってのみ、私たちがいま記念するNPTの過去50年の重要な成果を改善し、NPTの次の50年の成功を展望することができるのである。」

このように共同コミュニケは、NPTの条約義務とNPTの枠組における合意の履行を迫る内容となっています。国際法の重要な基本原則に、pacta sunt servanda(合意は拘束する)というものがあります。NPTの50年の軍縮努力の結晶である数々の合意の履行を迫ることは、核兵器国に対して説得力があり、核兵器廃絶という目標の達成に非常に効果的な方法であると思われます。

(明治大学 小倉康久)

 

核不拡散条約50周年を記念する共同コミュニケ(仮訳)

アルジェリア、オーストリア、ブラジル、チリ、コスタリカ、エクアドル、エジプト、インドネシア、アイルランド、マレーシア、メキシコ、モロッコ、ニュージーランド、ナイジェリア、フィリピン、南アフリカ及びタイは、核兵器不拡散条約(NPT)発効50周年を祝するものである。緊張と不信が高まった時代にNPTが開始された事実は、今日のように国際安全保障状況が厳しい環境において、国際協力の価値と多国間外交の成功を示すものである。

発効から50年が経過した現在も、NPTは国際の平和と安全に貢献する貴重な文書である。 それは、地球規模の核軍縮と核不拡散体制の礎石として、核兵器による脅威とその拡散を削減する国際的な努力を支えるとともに、人類から核兵器がもたらす実存的脅威を取り除くべく、核兵器の完全な撤廃に向けた地球規模の核軍縮の基礎を提供してきた。

核兵器による人類への継続的な脅威に対する深い懸念とその壊滅的な人道上の影響の可能性もまた、重要で具体的な前進の緊急の必要性を強調している。これに関して、私たちは、2010年のNPT再検討会議の最終文書に反映されているように、核兵器のいかなる使用からも生じる壊滅的な人道上の結末についてすべての締約国が表明した懸念を想起する。

NPTは、核不拡散が締約国の核エネルギーの平和的利用への権利とアクセスを妨げないようにしつつ、核エネルギーの平和的利用の多様化を促進する上で極めて重要な役割を果たしてきた。この点で、国際原子力機関(IAEA)は、NPTの履行に向け、効果的な役割を成功裏に果たしてきた。

NPTの50周年は、NPTの普遍化の重要性を思い起こさせる。条約に参加していないすべての国は、さらなる遅延や条件なしに、非核兵器国として条約に参加すべきである。これは、等しくそして相互に補強し合う条約の3つの柱を完全に実施する私たちの集団的な努力を倍加する機会であり、この3つの柱の完全な実施は、条約の目的を実現するために不可欠である。過去の検討会議において締約国は、条約の義務を履行するために特別の約束を行った。 今日に至るまでNPTで達成された成果は、この目的に向けた協調的で国際的な努力の集大成である。

NPT履行の成功は締約国の手にかかっている。非核兵器国は、核兵器国による核軍備の廃棄と引き換えに核兵器を開発しないことを約束した。核軍縮の前進は、核不拡散および核エネルギーの平和的利用よりも遅れている。 NPTの枠組みの中で義務と約束を果たすためには、具体的で透明性があり、検証可能で不可逆的な核軍縮措置を実施することが緊要である。 私たちは、NPTの信頼性、実行可能性及び有効性を擁護し、維持しなければならず、そしてNPTを保護する唯一の方法はNPTを履行することである。

過去50年間で核軍縮に関するいくつかの前進が達成されたが、それは十分からはほど遠く、核軍縮の義務はまだ果たされていない。現在進められている近代化とアップグレードの計画は、これまで達成された前進を逆転させる危険にさらしている。同時に、多国間核軍縮及び軍備管理制度の侵食が深刻に懸念されており、既存の合意は終了しつつあり、他の合意は危険にさらされている。現今の地球規模の安全保障環境と課題は、緊急の前進を必要としている。

2000年のNPT再検討会議で核兵器国は、核軍縮につながる自国核軍備の完全廃棄を達成することを明確に約束し、この点での前進を加速させることを約束した。その後2010年の行動計画は、NPTの第6条の履行を進めるべく、13の実際的なステップを含む1995年と2000年の決定を再確認した。核兵器国は、自らの特別な責任を念頭に、核軍縮に至るステップの前進を加速させることを約束した。私たちは核兵器国に対し、NPTにおける義務の履行を加速させるために、それらの既存の約束を履行し、その上にさらなる構築をすることを要請する。

NPT発効50周年は、その無期限延長25周年と一致している。 NPTの無期限延長は、条約の再検討プロセスを強化する決定、核軍縮と核不拡散の原則と目的を特定する決定、核兵器及び他の大量破壊兵器のない中東地帯の確立に関する決議を含む、決定のパッケージの一部であることを思い起こすことが重要である。中東決議を含むこれらの決定はNPTの無期限の延長と不可分であり、すべての締約国が尊重する必要がある。

条約の無期限延長は、いかなる意味においても核兵器の無期限の保持を正当化するものとして解釈され得ないことも強調されるべきである。

世界のすべての地域における非核兵器地帯(NWFZ)の設立は、核兵器の完全廃棄に至る間、地球規模の軍縮と核不拡散を強化しNPTの目的の実現に向けた前向きなステップであり、重要な暫定措置である。

この重要な機会に私たちは、これまでのNPT再検討会議で合意された約束を厳粛に再確認する。次の再検討会議ではその上にさらなる構築がなされるべきである。私たちは他の締約国にも同様のことを求める。NPTの歴史には課題がなかったわけではなく、今日それは再び困難な課題に直面している。しかし、これらのさまざまな障害に対する認識が、私たちの歩みを妨げる理由となるべきではない。そうではなく、NPTの文脈において、礼節と外交による、より開かれた包摂的で透明性のある多国間対話を通じて、それらを克服するために協力する決意を強化する必要がある。国際の平和と安全は、核兵器のない世界というNPTの目標に向けた協力と具体的な前進を通じてのみ達成される。

来たるNPT再検討会議はCOVID-19の世界的大流行による不運な状況により延期されたが、この会議は、締約国が条約の現状及びNPTの3つの柱の履行並びにその枠組みにおける過去の義務と約束について包括的な再検討と評価を行うための好機を提供する。再検討会議には、将来行われるべきさらなる具体的な前進のための追加の領域と手段を特定する責任がある。私たちは、この点に関して他の締約国と協力することに期待を寄せている。軍縮の約束が履行されるなら、そのことにより、持続可能な開発に、そしてまさに公衆衛生や地球的緊急諸事態に対処するための国際協力と準備とに割り当てられるリソースが増えることは疑いない。

締約国が、言葉を明確で合意された基準と時間軸に裏付けられた具体的な行動に移す時は今である。私たちが現在記念する過去50年の重要な成果を改善するこうした努力によってのみ、私たちはNPTの次の50年の成功に向かうことができる。

(仮訳:核兵器廃絶日本NGO連絡会(事務局) 河合公明)

サイエド・ハスリン議長との会合が行われました

2020年核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議主要委員会Iにおいて議長を務めるサイエド・ハスリン・サイエド・フッシン国連マレーシア政府代表部大使が訪日し、7月10日、核兵器廃絶日本NGO連絡会との意見交換会を外務省にて行った。サイエド・ハスリン議長は、4月~5月に開かれた、核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議の第3回準備委員会で議長を務めた。また、同委員会でヒバクシャ国際署名を受けとっている。

 

 

核兵器廃絶日本NGO連絡会の参加メンバーは、以下の通り。

柏原登希子(ふぇみん婦人民主クラブ)、大久保賢一(日本反核法律家協会)*、北村智之(原水爆禁止日本国民会議)、土田弥生(原水爆禁止日本協議会)、木戸季市(日本原水爆被害者団体協議会)*、濱住治郎(日本原水爆被害者団体協議会)、川崎哲(ピースボート、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN))*、湯浅一郎(ピースデポ)、篠原祥哲(世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会)、河合公明(創価学会平和委員会)、谷本真邦(世界連邦運動協会)

* =核兵器廃絶日本NGO連絡会 共同世話人(またはその代理) Co-chairpersons (or alternate) of Japan NGO Network of Nuclear Weapons Abolition

 

サイエド・ハスリン議長は第3回準備委員会について、勧告案の採択には至らなかったが、議長や手続事項について合意ができ、2020年NPT再検討会議への準備の土台はできた。すべての締約国にとりNPTが重要であることが再確認された、と述べた。(準備委員会詳細は、NGO連絡会ブログ参照

 

NGO連絡会側からは、被爆者である木戸季市さんと濱住治郎さんが改めて核廃絶への思いを述べたほか、準備委員会におけるハスリン議長の努力に対する感謝と敬意を表明。その他、核兵器禁止条約の意義、核兵器の非人道性と市民社会や宗教コミュニティーが果たす役割、核軍縮を阻む核抑止論、NPT再検討会議におけるこれまでの合意、米国による核軍縮のための環境づくり(CEND)等について、質問が出た。

 

 

サイエド・ハスリン議長は、核軍縮をめぐる異なる立場間の対話の重要性を指摘。市民社会の役割に言及しつつ、軍縮教育の重要性について述べた。

文責:柏原登希子(ふぇみん婦人民主クラブ)

【2020年NPT再検討会議・第3回準備委員会⑥】全日程が終了しました

2019年5月10日、第3回準備委員会は10日間の日程を終え閉幕した。残念ながら2020年NPT再検討会議に向けた「勧告」を採択することはできなかった。一方、2020年再検討会議の議長には、アルゼンチンのラファエル・グロッシ大使が内定した。2015年NPT再検討会議の議長が前年の11月に決定したことと比べれば、このような早期の決定には期待が持てる。また、議題や手続規則についても合意が得られ、2020年に向けての最低限の準備は整ったといえる。

問題は、「勧告」の不採択に象徴されるように対立の溝を埋めることができなかったことである。会議の開幕以前から、核兵器禁止条約を巡る対立、アメリカのINF脱退に象徴されるように米ロの対立、中東問題をめぐる対立などが指摘されていた。

ここでは、核兵器禁止条約を中心に採択に至らなかった「勧告」案を検討することによって、今回の準備委員会を概観したい(筆者はこの会議に出席しなかったため、提出された文書、会議に出席したNGO連絡会のメンバーや他のNGOからの情報などをもとに検討を行う)。

サイード議長が作成した「勧告」の1次案は5月3日の夕刻に議場で配布され、5月9日には改訂版が提示された。「勧告」は、手続規則により原則としてコンセンサス(投票を省略し、全ての加盟国から異議のないことをもって採択されたとする方式)により採択するとされており、10日午前まで非公式会合で交渉が続けられたが、コンセンサスに至ることはできなかった。改訂版の「勧告」は、サイード議長のワーキングペーパーとして提出された。

改訂版の前文に相当する部分は、まず「NPT発効50周年、そして無期限延長25周年を念頭に置いて」として2020年NPT再検討会議が特別な意味を持つことを強調した(パラ1)。また、NPTは「グローバルな核軍縮および不拡散体制の礎石であること」(パラ2)、NPTおよびこれまでのNPTの枠内で行われた約束を完全に履行する義務があること(パラ4)を再確認した。これら部分は、1次案の内容をやや強化したものといえる。

なお、フランスは、1次案に対して「国際安全保障環境の悪化」に言及すべきであると主張したが、改訂版に加えられることはなかった。

また、「全ての加盟国は、この条約を完全に履行する責任を有していること」(パラ5)を再確認したが、この部分は、1次案と比べて大きく変更されている。1次案では「全ての加盟国は、この条約を完全に履行するための国際環境を整備する責任を有していること」とされていたが、「国際環境を整備する」ことが削除された。この「国際環境を整備する」こととは、アメリカが主張しているCEND(Creating an Environment for Nuclear Disarmament)アプローチを意図するものと思われる(CENDとは、核軍縮の前提として、核軍縮を行える環境を整備するというアプローチである)。アメリカが主張するアプローチを削除したことが、コンセンサスの形成に悪影響を与えたことは想像に難くない。

さらに、「条約に基づいた(核)軍縮構造が侵食されていることに懸念を表明し、関連する条約が相互に強化する関係を強調すること」(パラ6)が新たに加えられた。このパラグラフは、核軍縮に関する表現を強めていることから、コンセンサス不成立の一因となったと考えられる。

核兵器禁止条約についての直接の言及はパラグラフ22のみであり、会議全体を通しても控えめのように思われる。パラグラフ22は、「多くの国が核兵器禁止条約を支持していること、また核兵器禁止条約はNPTを補完するものであることを認識すること」とする。前半部分は、核兵器禁止条約の署名国は70カ国、批准国は23カ国であるという事実を反映したものである。その一方で、後半部分は「核兵器禁止条約はNPT体制を損なう」という核兵器国などのこれまでの主張を明確に否定したものといえる。

また、改訂版には「核兵器のない世界を実現し維持するために、核兵器を禁止する法的拘束力のある規範の必要性を認識すること」(パラ21)が新たに加えられ、核兵器禁止条約の必要性が強調された。

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の加盟団体であるReaching Critical Willによれば、改訂版に対してアメリカ大使は「著しく悪い(dramatically worse)」、フランス大使は「有害な内容が含まれている」と述べたという。さらに、アメリカはワーキングペーパーとして提出された「勧告」案に対しても、拒否の姿勢を示すワーキングペーパーを提出しており、態度を著しく硬化させている。

長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)のブログによれば、「最初の議長案に対しては、口頭での発言を見る限り、バランスが取れているとして西側諸国が概ね肯定的であったのに対し、非同盟諸国からは核軍縮に関する言及が不足であるとして、多くの批判的な意見が寄せられた」という。

このような指摘からも、改訂版は1次案と比較して、コンセンサスに至ることがより困難な内容となっているということができる。改訂版の作成の背景については、現時点では分かりかねるが、サイード議長が非同盟諸国のマレーシア出身ということは指摘しておきたい。

サイード議長が公表した会議の「振り返り」によれば、「加盟国の見解には、相違点よりも一致点の方がより多かった」と述べ、今後の合意の可能性を示唆している。また、「NPTは、核軍縮および不拡散体制の礎石であるという確信を加盟国は持っている」と述べており、NPTの重要性を核兵器国・非核兵器国を含む全ての加盟国が共有しているとする認識は非常に重要である。

その一方で、「戦略的安定性に対するこの条約の積極的な貢献は、よく理解されており、尊重されている」と指摘し、NPTの安全保障の側面に対する貢献について一定の理解を示した。また、「核軍縮、不拡散、原子力の平和利用の3本柱の調和を図ることが求められる」として、核軍縮の側面のみを強く主張する側に対して牽制する姿勢を示した。

こうしてみると、NPTは様々な問題を抱えているとしても、核兵器国・非核兵器国の双方にとって不可欠な存在であるという認識は共有されているということができる。ここに、人間の理性、そして特別な意味を持つ2020年NPT再検討会議の成功の可能性を見出すことができるのではないだろうか。

文責:小倉康久(明治大学)

【2020年NPT再検討会議・第3回準備委員会⑤】「ヒバクシャ・アピール」のサイドイベントが行われました

5月3日、第3回NPT準備委員会のサイドイベントとして、「ヒバクシャ国際署名」主催、PEAC、世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会が共催する「ヒバクシャ・アピール」が開催され、国連、NGO、学生、メディア関係者ら約80名が参加しました。本イベントは、5月1日に準備委員会のサイード・ハスリン議長に「ヒバクシャ国際署名」941万人分超が提出されましたが、さらなる世界的な「ヒバクシャ国際署名」の展開をめざす目的で開催されました。

最初に、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)事務局長の木戸季市氏が、5歳のときに長崎で被爆した体験を語りました。「私が見た世界は誰もが予想できない世界で、人類の終わりの地獄でした」と当時の被爆地の様子を語り、「もうこんなことは絶対に起こってはいけない世界」であると述べ、「私たちの命が少なくなってきた今、将来の子ども達に青い地球を残したい」という決意からこの「ヒバクシャ国際署名」を開始したという心境を述べました。

次に、被団協事務局次長の濱住治郎氏は、胎内被爆者として被爆の証言を行いました。原爆によって49歳でなくなった父の思いを振り返り、「父の分まで生きなければいけない。そして核兵器が存在するかぎり被爆者は安心できない」と述べました。胎内被爆者は生まれる前からすでに被爆者であるという苦しみを語り、非人道的な兵器である核兵器を廃絶し、「ふたたび被爆者をつくらせてはいけない」と訴えました。

WCRP国際軍縮シニア・アドバイザーの神谷昌道氏は、今年の8月のドイツにおける第10回WCRP世界大会や来年10月の第9回アジア宗教者平和会議(ACRP)大会などで、世界の宗教者に「ヒバクシャ国際署名」を呼びかけることを誓いました。また、この準備委員会に向けて、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)日本とWCRP日本委員会が共同提言した核抑止論の再考を求める「核兵器廃絶に向けた共同提言文」について説明をしました。

司会を務めたPEAC代表のレベッカ・アービー氏は、被爆者が被爆者証言をする際の心労の大きさを知ったときに、「私たち若い世代は決して核兵器の恐怖を忘れてはならない、核兵器のない新しい世界をつくらなければならない。まだまだ署名をしていない人がいるので、さらに多くの人に署名を呼びかけたい」と力強く述べました。

その後、核兵器のない世界へ願いを引き継いでいくという意味で、聖火の模型を手渡しながら、各スピーカーが平和への思いを表明しました。木戸氏、濱住氏、神谷氏、レベッカ氏、そしてアワッドさん(14歳)、アボザジオさん(13歳)、広島の庭田杏珠さんと手渡されました。

このイベントでは、フリーディスカッションも行われました。フロアーから被爆者の木戸氏、濱住氏に対して、様々な質問が投げかけられました。印象的であった質疑応答を紹介します。

質問では「原爆投下は戦争を早く終わらせたのではないか?」、「被爆者の方々が、大変な心労で被爆証言を行っているが、時には辞めたくなることはないのでしょうか?」、「街頭署名をお願いしても、なかなか理解してくれない人がいるがどのようにすれば、もっと署名が集まるか?」などが出されました。

これらの質問に対し、木戸氏が回答をしました。以下はその要約です。

「原爆が戦争を終わらせたということを認めることは、戦争を終わらせるために核兵器を使うことを容認することになります。これまで戦後74年間に多くの戦争が起きましたが、原爆が戦争を終わらせたことは一度もありません。原爆には戦争を終わらせる力はありません。」

「被爆者の『ふたたび被爆者をつくならい』という被団協の運動に参加したのは、50歳の時からでした。被団協の運動は自らを救うと共に、人類を救う運動です。今、この運動を通して、自分の生き方を見つけられていることは幸せなことです。」

「運動を展開するには仲間が必要です。私にとって仲間は、現在、一緒に運動を展開している方々でありますが、原爆で亡くなった方々も私の仲間です。この仲間と共に核兵器廃絶をめざしているのです。」

「運動を展開するためには人類の歴史の勉強が必要です。本当に歴史を学ぶことが、平和をつくることになり、それをめざす仲間が増えるのです。皆さん、たくさん学びましょう。」

このような活発なフリーディスカッションを通じて特に心に残りましたのは、出席した若い人達が被爆者の方々に積極的に質問をしている姿でした。その姿からは、被爆者の核兵器なき世界の願いを継承しいきたいという強い意志を感じました。

「ヒバクシャ国際署名」は、国際的に幅広く多くの人々と核兵器なき世界の願いを共有することを意図していますが、このイベントを通じて、被爆者の「ふたたび被爆者をつくならい」という意志を世代間を越えて共有・継承していくことに大切な意義があることを、改めて実感しました。

文責:篠原祥哲(世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会)

このイベントをはじめ、被爆者の木戸さん、濱住さんのニューヨークでの活動が広く報道されています。

NHK広島 2019.5.10 国連で核兵器廃絶訴え 被爆者の活動に密着

共同通信 2019.5.4 被爆者が米国で即時核廃絶訴え 国務省幹部「今はできない」

朝日新聞 2019.5.4 長崎、広島の被爆者が国連内外で核廃絶訴え

NHK 2019.5.4 被爆者 核兵器禁止条約参加求め署名呼びかけ NY国連本部

NHK 2019.5.5 長崎の被爆者がNGO国際会議で核廃絶を呼びか

しんぶん赤旗 2019.5.5 核兵器禁止へ頑張ろう

しんぶん赤旗 2019.5.6 核戦争回避へ各国市民連帯 ニューヨークで国際会議

聖教新聞   2019.5.6   アメリカ・ニューヨークでNPT再検討会議準備会合   SGIの代表が参加 宗教間の共同声明を発表

【特別寄稿】 混迷の今こそ「被爆の実相」に思いをはせて:第3回NPT準備委員会の前半を終えて

会場となっている信託統治理事会会議場


2020年NPT再検討会議・第3回準備委員会は3日(現地時間)、1週(前半)の議論を終えました。2週(後半)では、さらに不拡散(クラスターII)、原子力の平和利用(クラスターIII)、そして来年の再検討会議の運営事項、3日の夕方に配布された来年の再検討会議に向けた勧告の草案の検討が行われます。

ここで、同準備委員会に参加している、広島市立大学広島平和研究所の福井康人准教授からの寄稿を掲載します。


5月3日(金)に第3回準備委員会の前半が終了した。一般討論演説とクラスターI(核軍縮)が終了し、中東問題や第一追加議定書の普遍化をはじめとする難問を抱えるクラスターII(核不拡散)が始まったばかりである。

核軍縮の関係では、核兵器禁止条約が成立したこともその遠因にあるのか定かではないが、米国が昨年あたりから、「核軍縮のための環境づくり(CEND)」イニシアティブを本格的に推進し始めた。その詳細については、4月30日に行われた米国政府主催のサイドイベントにおける、クリス・フォード国務次官補による演説を参照願いたいが、要は核軍縮のための環境を整えるべしとするものである。即ち、軍縮に関連する決定が行われるに際しては、自国を取り巻く安全保障環境を考慮する必要がある。その一例として、前世紀の戦間期に一連の軍縮会議が成功したのも、使用しうる兵器を管理することよりも、安全保障環境を整えることが重要である。ワシントン軍縮会議等が成功を収めたのも、こうした安全保障環境の整備が進められたからである、とする。

こうした米国の動きと対照的なのはフランスであり、核兵器禁止条約に反対する姿勢を一層鮮明にした。フランスも、核軍縮の問題を安全保障の文脈から切り離すことは危険であるとする。即ち、それが大量破壊兵器及び運搬手段の拡散に繋がり、そうした拡散は全世界的及び地域的な緊張に特徴づけられているとする。故にフランスは、核兵器禁止条約に反対するという。また、同条約の発効は別途の矛盾する規範の形成につながり、国際不拡散体制の要であるNPTを弱体化させかねないものであり、フランスは(発効後も)同条約には加入しないことを強調している。更に、念を押すが如く、同条約に参加する国は、特にアジアや欧州において、核抑止力がない中で、大規模な通常兵器戦争のリスクを抱えずに、再軍備や脅威の発生に対して、どのように安全保障と安定を確保するのか説明する必要があるとする。このように、今回のNPT準備委員会での核兵器国側の発言は、概ねこれまでの立場を維持しているものの、そのなかでも米国とフランスの発言が注目される。

筆者はちょうど30年前に外務省の軍備管理軍縮課に配属されたこともあり、その時のことを思い起こすことがままある。当時、担当の包括的核実験禁止条約(CTBT)で初めて国会答弁案を書いた時、「被爆の実相」という表現に出会い、随分と不思議な表現だと感じたのを覚えている。今回の出張の際に広島で利用したタクシーの運転手さんから聞いた話なのだが、その方が子供だった頃は、広島市内で道路工事があると大量の人骨が発見されることがよくあったという。つまり、通常であれば弔って火葬するのであろうが、それが出来ない程の短期間での膨大な数の死者で、そのまま埋葬せざるを得なかったのであろう。そんな想像を絶する状況が市内で数多く生じたものと思われ、それが「被爆の実相」の一つの事例ではなかったかと、思いを馳せてしまった。

米国やフランスの発言からは、人間の生存する(或いは生存できなくなる)姿が十分に伝わってこないのが正直なところである。しかし、恐らく今後も神学論争じみた議論が続けられるであろう。会議のためにニューヨークに出張するという話をしたら、何故かタクシーの運転手さんはこの話を私にした。使い古された表現ではあるが、今一度「被爆の実相」とは何かを考えつつ、2020年NPT運用検討会議に向けて研究を行いたい。

広島市立大学広島平和研究所 福井康人

国連本部事務局ビルとイースト・リバー

【2020年NPT再検討会議・第3回準備委員会④】核政策法律家委員会(LCNP)主催のサイドイベントが行われました

5月1日の午後も多くのサイドイベントが開催されましたが、その一つに「人権、民主主義そして核兵器」と題するサイドイベントがあります。主催した核政策法律家委員会(LCNP)は法律家から構成される国際反核法律家協会(IALANA)の米国加盟団体であり、これまでも国際法の視点から核兵器の廃絶に繋がる法的提言活動を積極的に行っています。

このサイドイベントでは、LCNPのジョン・バロース氏がモデレーターとなり、ローザンヌ大学のリエティカー講師やハーバード・ロースクールのドカティ講師ら法律専門家がスピーカーとなって最近の国際人権法の発展が核軍縮に及ぼす影響が議論されました。その一つは国際人権規約(自由権規約)により設置された自由権規約委員会が昨年10月に採択した生命に対する権利の解釈に関する「一般的意見」に関するものです。

この意見の中で、同委員会は「大量破壊兵器(特に核兵器)であって、無差別の効果を持ちかつ壊滅的規模の生命の破壊をもたらすものによる威嚇またはその使用は、生命に対する権利の尊重と両立せず、かつ国際法上の犯罪に相当し得る」との解釈を示しました(パラ66)。自由権規約は172カ国が締約国となっており人権条約の中でも主要なものです。このなかで同規約第6条において「何人も、 恣意的にその生命を奪われない」と規定される生命に対する権利は、戦時等の公の緊急事態においてもその尊重が締約国に義務付けられており、生命に対する権利は数ある人権の中でも王座を占めるとされています。

自由権規約の締約国にはNPTの核兵器国も含まれており(中国は署名のみ)、同規約の第6条がこの一般的意見のいうように解釈されるとするなら、これら核兵器国及びその同盟国がとっている核兵器に依存する政策は生命に対する権利の侵害に該当し、国際法上の犯罪ともなりうることになります。

もう一つは、核兵器禁止条約暫定的な仮訳)が国際人権法の発展に基づく規定を有していることです。つまり、同条約の前文では国際人権法の遵守の必要が再確認されたうえで、核使用・実験の被害者に対して援助を提供することが管轄権をもつ締約国に義務づけられ(第6条)、すべての締約国にこれに協力することが義務づけられています(第7条)。

このように核軍縮の分野でも人権尊重を義務づける規範が受け入れられつつあります。これまで軍縮と人権の関係は認識されてはいましたが、実際の軍縮の取組みの中で人権の尊重がそれほど重視されてはきませんでした。自由権規約の締約国で核兵器に依存する国はこのような議論に向き合う必要がありますし、核廃絶を求める国やNGOもこの議論をどのように核廃絶への前進に活用するかを考えることが必要となってきています。

このような問題提起が今後のNPT再検討サイクルの中でどのように共有されていくのか注目したいと思います。

この問題に関するリエティカー氏の論稿(日本語訳)はこちら

文責:山田寿則(明治大学)

【2020年NPT再検討会議・第3回準備委員会③】市民社会による活動

5月1日(水)午前10時から、市民社会に発言の機会が与えられました(NGOプレゼンテーション)。ここでは、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)、核兵器を憂慮する宗教コミュニティ、広島・長崎両市長、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)、科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議、核政策に関する法律家委員会など、16人のスピーカーが登壇しました。

日本被団協からは、濱住治郎事務局次長が登壇。広島の胎内被爆者としての体験を語りました。濱住さんは、「戦争は終わっていません。いまだに世界に14500発もの核兵器が存在しているからです」と述べ、「原爆は、74年たった今でも、被爆者のからだ、くらし、こころに被害を及ぼしています」と訴えました。

そして、2016年4月、「ヒロシマ・ナガサキの被爆者が訴える核兵器廃絶国際署名」を開始したことに触れ、「平均年齢80歳を超えた被爆者は、後世の人々が生き地獄を体験しなくて済むよう、生きている間に何としても核兵器のない世界を実現したい」と訴えました。そして、この準備委員会で、「940万人を超える署名を提出させていただきます」と述べました。

さらに、2017年に採択された核兵器禁止条約に言及しつつ、「2000年の再検討会議で合意され、2010年に再確認した『保有核兵器の完全な廃棄を達成するとの核兵器国のよる明確な約束の履行』をすみやかに実行してください」と訴えました。最後に、「核兵器も戦争もない青い空を世界の子供たちに届けることが、被爆者の使命であり、全世界の大人一人ひとりの使命ではないでしょうか」と述べて、スピーチを結びました。

被団協の発言内容はこちら

ICANは、アメリカのイニシアティブである「核軍縮のための環境作り」(CEND)は、「巨大な核兵器の近代化プログラムから人々の目をそらせるべきではない」とし、「賢明な政府は中身のない言葉に惑わされることはなく、軍縮のための環境を真に作り出すのは、核兵器を拒否する核兵器禁止条約のような措置を通してであることを認識している」と指摘しました。そして「核兵器禁止条約を支持するという選択が、核軍縮のための環境を真に作り出すためにとりうる行動である」と述べました。

ICANの発言内容はこちら

その他、日本からは、平和首長会議の松井一實広島市長、田上富久長崎市長、原水爆禁止日本協議会の土田弥生事務局次長が登壇しました。また日本反核法律家協会が賛同者に加わった「核政策に関する法律家委員会」が声明を発表するとともに、創価学会インタナショナル(SGI)や立正佼成会が参加する「核兵器を憂慮する宗教コミュニティ」(53団体と個人が参加)が、宗教コミュニティとしての共同声明を発表しました。

広島市長の発言内容はこちら

長崎市長の発言内容はこちら

日本原水の発言内容はこちら

日本反核法律家協会が参加する核政策に関する法律家委員会の発言内容はこちら

核兵器を憂慮する宗教コミュニティの発言内容はこちら

午前中のセッションの終了後、午後1時過ぎから、サイード・ハスリン議長と中満・国連軍縮担当上級代表に、941万筆余りのヒバクシャ国際署名が提出されました。

午後3時からは、ナガサキ・ユース代表の主催によるサイドイベント「To inherit the consciousness all humans are HIBAKUSHAs(人類みなヒバクシャという意識を継承する)」が行われました。主催者の皆さんは、「半年間の準備をかけて、代表団なりに被爆者の定義について考える機会を提供できました」と語っていました。

同時刻には、中満・国連軍縮担当上級代表と準備委員会に参加している市民社会の意見交換会も行われ、核兵器廃絶日本NGO連絡会からも代表が参加しました。日本から参加した学生からは、「NGOの活動の役割を感じる良い経験になりました」との感想が寄せられました。(国連軍縮局による報告はこちら

文責:河合公明(創価学会平和委員会事務局長)

NGOプレゼンテーションやヒバクシャ国際署名提出の様子は、広く報道されました。

NHK 2019.5.2 NPT会合 米ロ対立で核軍縮進まない現状に強い危機感

朝日新聞 2019.5.2 胎内被爆者「戦争終わっていない」 ニューヨークで演説

共同通信/ロイター 2019.5.2 NPT準備委で被爆者が証言

TBSニュース 2019.5.2 広島・長崎市長が核軍縮訴え、NPT準備委

日テレNEWS24 2019.5.2 田上市長「核兵器の脅威の削減を」

読売新聞 2019.5.3 核禁止条約「締結を」署名941万筆、目録提出

毎日新聞 2019.5.3 NPT準備委 核廃絶、941万筆署名提出 被団協「世界の大勢」

東京新聞 2019.5.3 「核兵器廃棄の約束履行を」胎内被爆者、国連で訴え NPT再検討準備委 広島・長崎市長も演説

時事通信 2019.4.30 被爆者、軍縮大使と面会

共同通信 2019.5.1 被団協事務局長、軍縮大使と会談 核禁止条約署名を要望

長崎新聞 2019.5.3 核軍縮へ「米露対話を」NPT準備委で田上市長が演説

しんぶん赤旗 2019.5.3 ヒバクシャ署名941万人分提出 NPT準備委に被団協

毎日小学生新聞 2019.5.4 核廃絶署名941万筆を提出 日本被団協

聖教新聞   2019.5.6   アメリカ・ニューヨークでNPT再検討会議準備会合   SGIの代表が参加 宗教間の共同声明を発表

Kyodo May 2, 2019 A-bomb survivor continues mission for nuke-free world

NHK May 2, 2019 Hibakusha calls for abolition of nuclear arms

Mainichi/Kyodo May 2, 2019 More work needed ahead of 2020 NPT treaty review: envoy

Japan News/Jiji May 2, 2019 A-bombed cities urge quick implementation of nuclear ban treaty

UN Office of Disarmament Affairs May 3, 2019 High Representative Nakamitsu joins Ambassador Syed Mohamad Hasrin Aidid, Chair of 2019 NPT Preparatory Committee, in Accepting “Appeal of the Hibakusha” petitions presented by Nihon Hidankyo

【2020年NPT再検討会議・第3回準備委員会②】一般討論が始まりました

4月29日(月)午前10時(現地時間)、2020年核不拡散条約再検討会議・第3回準備委員会がニューヨークの国連本部で開幕しました。会場となっているのは、信託統治理事会の会議場です。

議長には、国際連合マレーシア政府代表部のサイード・ハスリン(Syed Mohamad Hasrin Syed Hussin)大使が選任されました。同議長は開会のスピーチで、2020年のNPT再検討会議が、同条約の発効50年、さらには無期限延長25周年にあたることに言及しました。また、全ての出席者に対して、お互いに話し合うよう求めました。そして、全ての利害関係者が同条約を支えることに期待を寄せました。さらに、今週の金曜日には、2020年NPT再検討会議に向けた勧告のドラフトをまとめたいと述べました。

サイード・ハスリン議長の発言

中満泉・国連軍縮担当上級代表は、安定や信頼性を促進する対話の減少や核兵器の価値が強調されるといった国際環境の悪化を指摘したうえで、今期の準備委員会を信頼と確信を回復するための機会として欲しいという希望を表明しました。さらに、NPTの誕生を導き、不拡散体制の礎石や核軍縮の重要な基礎としてだけでなく、国際安全保障の柱となってきた協力の習慣を回復するプロセスの開始に期待を寄せました。そのためには、妥協と柔軟性の精神、高度の忍耐力、さらには直接関係のない問題に捕らわれることなく、この条約の実質的な問題について取り組もうとする意思が必要であると指摘しました。

中満上級代表の発言

続いて一般討論が始まりました。すべてをカバーすることはできないので、核軍縮に関連して、特に筆者の関心を引いたいくつかの発言について、核兵器国、その核兵器に依存する国、非核兵器国の順に、概要をお伝えします。

― 核兵器国 ―

【アメリカ】

・核不拡散の約束なくして核軍縮はあり得ない。核不拡散と核軍縮の双方の両立が、NPTの共通の利益である。

・アメリカは、安全かつ持続可能な形で、核兵器のない未来へと前進することを阻害しない環境を築くための、「新しい対話」を模索している。

・冷戦後、アメリカは核弾頭の88%を削減することに成功したように、核軍縮の成否は緊張緩和と信頼醸成にある。当時の条件が失われてしまった今、新しい軍縮の言説の構築が必要である。

・こうした核軍縮のための環境作りは、すべての締約国がNPT第6条の軍縮義務を履行するために必要なことであり、アメリカはそれを推進する。

アメリカの発言

【ロシア】

・ロシアは、新START条約が、中距離核戦略全廃条約(INF)と同じ運命を辿ることを望まない。ロシアは、繰り返しこの条約の更新を主張してきた。

・ロシアは各国と協力して、朝鮮半島での永続的な平和の確立と非核化を促進するための行動計画を策定している。

・2018年12月の国連総会決議により開催される中東非大量破壊兵器地帯(WMDFZ)ための会議に、ロシアは参加する。

ロシアの発言

【中国】

・中国は、核軍拡競争に参加したことはないし、今後も参加しない。他国に核配備をしたこともなければ、核の傘を提供したこともない。

・核兵器国は、先制攻撃を核心に据えた核抑止政策を放棄するべきである。それが非核兵器国と非核地帯に対する安全の保証である。

・核戦争に勝者はない。それは、人類にとっての超えてはならない一線である。

中国の発言

― 核兵器依存国 ―

【日本】

・核兵器廃絶を求め原爆の実相を世界に伝えるために被爆証言を続けてきた被爆者の努力に感謝する。

・国民の生命と財産を守るのは政府の責任であり、日本は、核軍縮と安全保障を同時に求めていく。

・日本は2017年、「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」を立ち上げた。同会議は、2020年NPT再検討会議へ向けた国際社会の努力を呼びかける「京都アピール」を発表した。

・日本は、2018年5月に発表された国連事務総長の軍縮アジェンダを支持する。特に、青年こそが世界変革の力であるという点について、市民社会とのパートナーシップをさらに強め、軍縮・不拡散教育を通じて、次世代の人々に核爆発に関連する安全保障上の懸念と危険性について意識の啓発を行う。

日本の発言

【EU(欧州連合)】

・EUは、新STARTを国際およびヨーロッパの安全保障にとって非常に重要なものととらえており、米国とロシアは、新STARTの更新と延長をするべきである。

・米国とロシアに対して、戦略および非戦略、配備および非配備を含む核兵器のさらなる削減を求める。

・核軍縮と不拡散プロセスにおける、ジェンダーの平等は不可欠の要素である。

EUの発言

― 非核兵器国 ―

【カザフスタン】

・核兵器国による核軍縮義務の明らかな不履行が、核兵器禁止条約に繋がった。

・全ての締約国に対し、核兵器禁止条約の早期発効のために、同条約に署名、批准することを求める。

カザフスタンの発言

【ラテンアメリカ・カリブ海核兵器禁止機構(OPANAL)】

・核兵器の使用およびその威嚇は、国連憲章および国際人道法を含む国際法に違反し、人道に対する罪を構成する。

OPANALの発言

【南アフリカ】

・1995年、ネルソン・マンデラ大統領は、国連総会における彼の最後の演説で次のように述べました。「我々は、問わなければなりません。非道で恐ろしい大量破壊兵器の廃棄を拒むことを正当化するために精巧で洗練した議論を行ってる人達にはナイーブに聞こえるかも知れないが、なぜそのようなものが必要なのか、と」。

・核弾頭の数的削減は重要だが、核兵器の継続的な近代化は、いまだに破壊のための兵器を制限なく保持しようとしている国があることを示している。こうした動きは、NPTの法的義務と政治的約束に逆行するものである。

・こうした理由から、南アフリカは、核兵器禁止条約の採択を歓迎し、本年2月に同条約を批准した。同条約は、1945年以来、核軍縮における最も重要な進展であると信じ、その早期発効への努力を惜しまない。

・禁止条約は、1995年、2000年、2010年、あるいは2020年のNPT再検討会議における最終文書の履行を妨げるものではないし、また妨げてはならない。

南アフリカの発言

【オーストリア】

・NPTは、その完全な履行と遵守が必要である。核兵器国による、第6条を狭義的に解釈しようとする動きは、NPTにおける各国の信頼を損なうものである。

・核兵器の近代化、核兵器が安全保障のために必要であるとの核兵器国による言説は、NPTに反するものである。

・NPT 締約国に対し、核兵器禁止条約への署名と批准を求める。

筆者は、いくつかの問題意識を持ちながら、議論に耳を傾けています。特に、NPTの締約国、特に核兵器国は、今日もなおNPTを重要な国際レジームとみなしているかという点に注目しています。そうであれば、異なる立場の間に対話の可能性は開かれるからです。その観点で、米国のイニシアティブである Creating an Environment for Nuclear Disarmament (CEND) が、何を意図するものかは興味深いところです。また、先端技術が核抑止論にどのような含意をもち、影響を与えるかという点にも注目しています。核兵器の問題は、冷戦時代の「過去の問題」ではなく、AI時代の「新しい問題」でもありうるからです。この点は、「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」による「京都アピール」と共通の問題意識でもあります。

一般討論は30日も続き、その後、NPTの3本柱である①核軍縮、②不拡散、③原子力の平和利用のクラスターに分かれて議論が繰り広げられます。

文責:河合公明(創価学会平和委員会事務局長)

NPT準備委員会に先立ち、外務省と意見交換会を行いました

スライドショーには JavaScript が必要です。

4月23日、核兵器廃絶日本NGO連絡会に集うNGOメンバーら15名は外務省を訪れ、NPT準備委員会に先だって日本の核軍縮・不拡散政策について意見交換を行いました。外務省からは辻清人外務大臣政務官、今西靖治軍備管理軍縮課課長らが参加し、1時間強にわたって意見交換が行われました。

NGOから外務省に対して出した質問・要請文はこちら

NGOからの参加者は以下の通りです。

続きを読む