核兵器禁止条約に関する国連総会決議と規範形成

 

 2022年10月28日から国連総会の第1委員会で核軍縮に関する諸決議の採択が始まった。国連総会には主要な委員会が6つあるが、第1委員会は軍縮や安全保障を扱う下部機関であって、ここで採択された決議は、総会本会議に送られ、例年12月初旬の本会議による採択を経て正式な国連総会の決議となる。総会の決議に法的拘束力はないが、世界の193の加盟国が集い「人類の議会」とも称される場における決議は、政治的な重みを持つし、特に決議の提案国や賛成国にとっては、その内容はその国にとっての国際公約と言えるものとなる。

 今年8月のNPT再検討会議の議長最終文書案(NPT/CONF.2020/WP.77)は、ロシアによる反対のためコンセンサスによる採択ができなかったが、同国が反対した箇所を除いては、NPT締約国の間にコンセンサスが存在していた可能性があった。日本が第1委員会に提出した今回の決議案(A/C.1/77/L.61)は、8月の最終文書案の内容のいくつかを確認するものとなっており、NPT再検討会議におけるコンセンサスの有無を確認する側面がある。

 この決議案で核兵器禁止条約(TPNW)に初めて言及したことも注目される(前文14項)。従来、TPNWをめぐっては、推進国と反対国との間で厳しい対立が続いてきた。これまでの日本決議でもTPNWに言及することはなかったが、前述の最終文書案ではTPNWに言及がなされており、今回の日本決議はこの点を踏襲したものだ(米国も共同提案国)。だが、TPNWに言及したと言っても、TPNWの採択を認識し(Acknowledging)、その署名開放、発効及び第1回締約国会合(1MSP)の開催に留意している(noting)だけであって、事実確認に過ぎない。TPNWを是認するといった肯定的意味は全くない。この言及により、前述の対立が緩和されたわけではない。実際、TPNWの主要な推進国、例えば1MSPで決まった会期間制度を担う諸国の反応は多様だ。オーストリア、チリ、アイランド、メキシコは賛成に回り(昨年は棄権)、タイは賛成、マレーシアは棄権とそれぞれ昨年の対応を維持したが、カザフスタンとキリバスは棄権し(昨年は賛成)、南アは反対した(昨年は棄権)。他方、核保有国の反応も、米国、英国、フランスは賛成、中国、ロシア、北朝鮮(DPRK)は反対、インド、パキスタン、イスラエルは棄権し、いずれも昨年同様の対応となっている。

 TPNWを推進する諸決議はどうか。まず、TPNWの署名・批准を呼びかけるTPNW決議(A/C.1/77/L.17)については、従来から核保有国並びにNATO加盟国や日本を含む米国の核傘下国が反対してきた。今年もその状況に変化はほぼない(オーストラリアが棄権に回った代わりに、NATO加盟手続中のフィンランドとスウェーデンが反対したので、反対国は1増となった)。TPNW成立以前から毎年提出されている、オーストリア等提出の核兵器の人道上の結末に関するいわゆる人道決議(A/C.1/77/L.16)と南ア等提出の核兵器のない世界に向けた倫理上の要請に関するいわゆる倫理決議(A/C.1/77/L.46;この決議は核兵器使用を国際法等に違反すると宣言している)については、採択状況に変化はほぼない。前者については、米露英仏イスラエルが反対し、中国、パキスタン、DPRKが棄権、インドのみ賛成し、後者については、米露英仏イスラエルが反対し、中国、DPRK、インド、パキスタンが棄権している(日本は従来から前者については賛成し、後者ついては棄権してきており、今回も同様)(以上、別表参照)。

 今年6月の1MSPで採択された「ウィーン行動計画」では、条約の普遍化を、締約国の拡大のみならず「核兵器固有の危険性と壊滅的な⼈道上の結末に対する懸念や、軍縮と国際平和と安全に対する条約の効果的貢献といった、条約の規範、価値、基本的な主張の促進」であると位置付けた(行動1)。この点からすれば、TPNW決議だけでなく、人道決議や倫理決議についても、賛成国の増加ないしは反対・棄権国の減少が求められるところだが、現状は、固定化されているように思われる。一つには、TPNW反対国が、人道決議や倫理決議で確認されている内容は、結局はTPNWに至るものだと認識し、この3つの決議を一体として捉えている点がある(例えば、10月31日仏英米の投票説明)。TPNWの推進との関係を整理しつつ、核兵器のもたらす人道上の結末や倫理上の必要性の認識をどのようにして広げていくかが課題となっている。

 総会決議には法的拘束力はないが、規範形成の証拠とされたり、形成を促す効果があるとされる場合がある。国際司法裁判所の核兵器勧告的意見(1996年)によれば、「総会決議は、一定の状況において、規則の存在や法的信念の出現を立証する重要な証拠を提供することがある」し、「新しい規則の確立のために必要とされる法的信念が徐々に形成されて行く様子を、一連の決議が示すこともある」という(同意見パラ70)。前記3決議がこのような規範形成の効果を持つと判断されるには、更なる賛成国の増加や反対・棄権国の減少が必要だろう。

 だが、反対国側も核兵器禁止規範が慣習法という国際社会一般を拘束する法規として確立する可能性を想定していることもまた事実だ。実際、核保有国はTPNWが慣習法化することはないと繰り返し言明している(直近では、10月28日のTPNW決議についての仏英米の投票説明)。これは、慣習法規が成立しても、その形成前から一貫して反対してきた国にはその慣習法規は適用されないという「一貫した反対国の法理」を踏まえた実行だと考えられ、ある種の予防線を張っているともみえる。

 TPNW関係の諸決議をめぐる攻防の背景には、核軍縮を進める具体的措置に関する議論と共に、禁止規範形成をめぐるせめぎ合いがある。

山田寿則(明治大学)

(別表)

決議名(決議番号)投票結果(賛成-反対-棄権)昨年の投票結果
人道決議(A/C.1/77/L.16141-12-31140-12-31
TPNW決議(A/C.1/77/L.17124-43-14123-42-16
倫理決議(A/C.1/77/L.46131-37-13129-37-17
日本決議(A/C.1/77/L.61139-6-31              152-4-30
※投票結果は、いずれも第1委員会におけるもの。

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