事前解説②:核兵器禁止条約の課題と日本

 核兵器禁止条約第1回締約国会議に向けた、事前の解説記事を掲載します。第2回目は、核兵器廃絶日本NGO連絡会幹事の河合公明さんによる「核兵器禁止条約の課題と日本」です。

【核兵器禁止条約の意義】
 核兵器禁止条約(TPNW)は、核兵器の開発、実験、生産、製造、取得、占有、貯蔵、移譲、受領、使用、使用するとの威嚇を禁止しています。さらに、禁止されている活動の援助、奨励、勧誘、核兵器の自国の領域や管轄・管轄下の場所への配置、設置、配備も禁止されます。これらの活動について、「いかなる場合にも」、つまり例外を認めない厳格な禁止が定められています(第1条)。このような厳格な禁止には、核兵器が悪であることを示し(stigmatize)、廃絶を迫る意図があります。

 TPNWの意義を改めて考えてみましょう。第1に、核兵器を兵器そのものとして禁止したことです。国際法の兵器の規制には、兵器そのもの(害敵手段)の規制と使い方(害敵方法)の規制という2つの方法があります。害敵手段として禁止されていない兵器は、害敵方法の規制を受けるにとどまります。これに対しTPNWは、条約により核兵器そのものを初めて禁止しました。ただし、条約という形式のため、参加していない国(非締約国)には禁止の義務が及ばないという制約があります。

 第2に、核不拡散条約(NPT)については、非核兵器国が不拡散の義務(第2条)を守っているにもかかわらず、核兵器国が核軍縮の義務(第6条)を守ってないという批判の声が、非核兵器国からあがっています。TPNWには、この履行状況の不均衡を是正するという役割があります。この役割は、NPTを補完するという点からも重要です。これが第2の意義です。

 第3に、「安全保障を確保する」手段としての核兵器という、核抑止に基づく言説を否定したことです。私たちは新型コロナの状況下で、人間にとって命や幸福がどれほど大切な価値であるかを感じています。安全保障の中核にあるこうした価値を守るために、核兵器は役に立つのでしょうか。TPNWが投げかけているのは、核兵器は命や幸福を守るものではなく、「安全保障を損なう」手段ではないかという問いであり、異議申し立てです。

【課題としての普遍化】
 TPNWの最大の課題は、締約国を増やすことです。第1回締約国会合が開かれることは、歴史的な一歩です。ただし、世界にはまだ1万3000発近い核兵器が存在しています。核兵器の廃絶を達成するためには、現在9カ国ある核兵器の保有国が締約国になる必要があります。この課題は、「締約国は、すべての国によるこの条約への普遍的な参加を目標として、この条約の締約国でない国に対し、この条約に署名し、これを批准し、受諾し、承認し、またはこれに加入するよう奨励する」という規定(第12条)として、条約自体に示されています。

 核兵器の保有国は、TPNWに反対しています。TPNWの採択後、最初のNPT再検討会議準備会合(2019年5月)で、米国は、安全保障環境の課題を無視して、核兵器の削減や禁止はできないと述べました。そして、軍備管理により安全保障環境を整えることが成功への道であると主張しました。

 同じ会合でフランスは、TPNWはNPTと相反し、それに取って代わる規範を作ることで、国際的な不拡散体制としてのNPTを弱体化させるため、TPNWに反対すると述べました。軍備増強がはかられ、脅威が高まる中、ヨーロッパやアジアをはじめとする地域で、核抑止なくしてどのように安全保障と安定を維持するのかについて、TPNWに参加した国は説明するべきであると主張しました。

 日本もTPNWに反対しています。核兵器禁止条約の交渉会議にも参加しませんでした。これに対し、世論調査によれば、TPNWの署名・批准について、7割の支持があります。他方で「核の傘」に依存する安全保障政策にも、6割を超える支持があります。この2つは両立しません。こうした状況にある日本で、TPNWの普遍化を求める議論をどのように行うかについて考えてみましょう。

【日本の課題】
 岸田首相は去年の12月、核軍縮の実質的な進展のための1.5トラック会合の中で「核兵器の質的・量的向上の制限を掛け」るというキーワードを示しました。それでは、核兵器の質的・量的向上の制限を掛けるのは誰でしょうか。その中心的な責任を負うのは、核兵器を必要と考えている国です。核兵器を必要と考えているのは、保有国だけではありません。米国の核兵器に安全保障を依存する日本も同様です。

 日本は自らが依存する核兵器の質的・量的向上に制限を掛けるために、どのような努力をするのでしょうか。自らの核兵器への依存を減らすために、どのような行動をするのでしょうか。核兵器国だけが核軍縮に向けたNPT上の義務(第6条)を負っているわけではありません。日本も同じ第6条の義務を負っています。この義務に照らしても、日本の努力と行動が問われます。

 そもそも日本が「不可欠」とする拡大核抑止(核の傘)とは、どのようなものでしょうか。日本政府の見解では、抑止力とは、「侵略を行えば耐えがたい損害を被ることを明白に認識させることにより、侵略を思いとどまらせるという機能を果たすもの」とされています。核抑止は、壊滅的な人道的結末をもたらす核兵器と抑止が結びついて概念化されたものです。つまり、核兵器の使用の「威嚇」を通じて、核兵器の保有国が相手の行動を断念させることです。拡大核抑止は、核兵器の保有国の同盟国のための核抑止です。

 核抑止の問題点を2つ指摘します。第1に、1945年の広島と長崎における原爆投下を最後に、今日まで武力紛争で核兵器が使用されなかったことは事実ですが、それが今後も持続可能かについては、何の保証もないことです。ウクライナの危機は、地球上の全ての人々が被爆者になりうるという事実を改めて強く突きつけています。第2に、核抑止は相手の軍事的な敵対行動を断念させることに焦点がありますが、敵対行動を防げなかった場合、どのように「対処」するのかとの問いに答えを用意していないことです。

 第2の問題をすこし詳しく見てみましょう。核抑止の議論の焦点は、相手の行動を「断念」させること(不作為)にあります。したがって核抑止の議論は、実際に相手による軍事的な敵対行動(作為)を未然に防止できなかった場合、それに対しどのように「対処」するのかとの問いに答えを提供しません。そのため、そうした相手の行動が発生した場合、実際にどのように「対処」するのかという問題が生じるのです。

 その時、核兵器に想定される役割があるのでしょうか。万が一にも核兵器を「使用」することが想定されているとすれば、どのように被害を最小化するのでしょうか。そもそも被害を最小化することが可能なのでしょうか。日本は、広島と長崎を経験しています。さらに核兵器の「使用」には、国際人道法の厳しい制約もあり、日本はその制約のもとにあります。核兵器の「使用」に焦点を当てると、こうした一連の問題が浮かび上がってきます。

 しかしながら、核兵器の「使用」に関わる一連の問題は、理論上、核抑止の議論の外にあります。国会でも議論されていません。国民に対する説明もありません。その一方で、北東アジアの安全保障環境が変化する状況下、日本が直面する課題は核兵器の「使用」が危惧される点にあります。核抑止に立脚する限り、この問題に取り組むことは原理的に難しい。それにもかかわらず、世界的に核兵器の廃絶が見通せない状況で、地域的に核兵器の脅威が存在する以上、日本の安全保障には米国の核兵器への依存が必要だと議論されています。そこで議論は終わっています

【オブザーバー参加の意義】
 核兵器に依存する安全保障政策に問題点があるならば、他の選択肢の議論も必要ではないでしょうか。その選択肢から、TPNWを除く必要はあるでしょうか。日本政府は、TPNWに反対の立場をとっていますが、その態度に検討の余地はないでしょうか。

 日本はTPNWの締約国ではありませんが、締約国会合へのオブザーバー参加は認められています(第8条5項)。TPNWの意義や課題について意見を交わすことは、日本にできる貢献であるのみならず、自国の安全保障政策について考える機会を提供します。米国の「核の傘」に依存するNATO加盟国のノルウェーやドイツはオブザーバーでの参加の意向を表明しています。日本は、核兵器の保有国に核兵器の削減を促すだけでなく、核兵器への依存を自ら減らす努力を求められています。オブザーバー参加は、その努力の一環でもあります。私たちにできることは、日本がどのように努力するのかについて政府に問い、説明を求めることです。

文責:河合公明(核兵器廃絶日本NGO連絡会幹事/長崎大学大学院博士課程後期)

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