NY報告③ 禁止事項、検証・廃棄、被害回復、履行――第3~5日の議論から

ニューヨークで開催されている核兵器禁止条約交渉会議の現地からのレポート、第三弾はピースデポの荒井摂子さんからです。

5月に着任した中満泉・国連事務次長(軍縮担当上級代表)と懇談する、被爆者、被爆二世を含む核兵器廃絶NGO連絡会メンバー(6月19日、国連本部)

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先週木曜日(6月15日)から始まっている核兵器禁止条約交渉の第2会期は、議長の草案を、①前文、②1条(禁止事項)、③2~5条(検証など核兵器廃棄の関連事項)、④6条(被害者援助や環境回復)、⑤7~10条(条約の実施)、⑥11~21条(最終条項)、という6つの「クラスター」に分け、クラスターごとに個々の条項案に関する具体的意見交換を行うという形で進みました。各クラスターの「最後の15分」が市民社会からの発言時間としてNGOなどに割り当てられ、熱のこもったスピーチが続きました。

開幕直前に発表された最新版の日程表では、6月21日(水)までの5日間(土日を除く)で全条項を一通り検討し終えた上で、翌22日以降の作業日程を決める予定になっています。21日(水)午前の部が終わった時点でクラスター⑥まで一通りの議論を終えて、今のところ会議は順調に進行していると言えそうです。以下、19日(第3日)から21日(第5日)午前までの議論の一部を紹介します。(すべてを網羅できていない点はご容赦ください。)

■禁止事項(1条、クラスター②)(第2日から続く)
・草案に挙がっていなかった「使用の威嚇」「融資」「通過」について、これらを禁止事項に明示的に含めるべきだという発言が目立ちました。これらは、3月会期でも少なくない参加者が明文での禁止を求めていたので、ある意味そうした意見が出るのは予想されたことではありました。
・「使用の威嚇」は1条でなく前文に入れることを求める意見もありました。
・「融資」は、禁止すれば核兵器産業に打撃を与えられるので核保有国が入らないうちでも禁止条約に実効性を持たせられるとして、特にNGOが明文化を強く主張しました。これに対して南アフリカやオーストリアなどから、融資は複雑な問題をはらみ、検証や履行が困難だとして反対意見が出されていました。なお、「融資」は草案で禁止されている「援助」の一形態だという解釈もされています。
・「通過」についても検証の困難性を理由にした消極的な意見が聞かれました。
・今回、注目されたのは、NGOから新たに「使用の計画および準備」の禁止という提案があったことです。核抑止依存国を特に意識した規定で、3月会期では見られなかった提案です。
「実験」はCTBTで禁止されているのでここでは不要との意見がありました。
・また、草案に挙がっている「実験」は核爆発を伴うもののみですが、爆発以外の未臨界核実験やコンピュータを用いた実験も対象とすべきとの意見がありました。これに対しコンピュータ実験は検証が困難とする反対論もありました。
・スウェーデンが、1条2項に「核兵器」についての定義規定を設けるべきだと主張しました。これに対しメキシコなど数か国が、NPTを初め他条約にすでに定義があるから不要だと反論しました。イランが、他条約で定義されていない「核技術」を定義するのは賛成だとしました。

■申告、保障措置、検証、廃棄(2~5条、クラスター③)
・3条がNPTと同様の保障措置を規定していますが、検証・保障はNPT非加盟国のみを対象にすべきだという意見が南アフリカから出ました。また、草案には3条に関連する「附属書」がついていますが、これを本体に統合すべきだという意見が相次ぎました。
・草案の4条と5条は核保有国参加の「2つの道」を規定しています。このうち4条は、保有国がまず核兵器を破壊してから条約に入るための規定、5条は、自国の核兵器の放棄を決意した保有国が、禁止条約の締約国との間で、具体的な核兵器の廃棄プロセスを交渉して条約本体とは別に議定書を締結し、それに従って廃棄するという規定です。
・南アフリカは、上記の2つのいずれとも異なる「第3の道」を提唱しました。大まかにいえば、自国の核兵器放棄を決意した保有国が(ここまでは草案5条と同じ)、一定期間内に核兵器を一定の計画にしたがって廃棄することを宣言して条約に加入し、その計画に従って廃棄してIAEAの保障措置を受ける、というものです。
・南ア提案を支持する国々がいる一方で、草案4・5条に賛成する国々もおり、意見は分かれました。
・南アはまた2条で「申告」すべき内容として、草案にはなかった「核兵器使用の計画、訓練、軍備への従事の有無」も挙げました。これは核兵器依存国を念頭に置いた規定として注目されます。

■被害者援助、環境回復など「積極的義務」(6条、クラスター④)
・核兵器の使用や実験の被害者に対し締約国が援助を提供する義務を規定した6条1項に関わって、エジプトが、核実験被害者への援助については、実験の実施国に対してより大きな責任を負わせるべきと主張し、これにベトナム、ナイジェリア、キューバ、イランなどが賛意を表明しました。ただしチリは、「将来、締約国となるべき国(核実験実施国)がこの条約に入るのを拒まないよう、文言の選定には気を付けたい」と慎重論を述べました。
・他方で、被害者の権利を保障する義務を主として負うのは居住する国の政府であり、人権・市民権に関するこの原則を忘れてはならないという指摘もされました。
・少なくない国が、この6条と、条約上の義務の履行に関わる締約国間の協力を規定した8条との関係について、整理する必要を指摘しました。被害者への援助提供に際しての国際協力を定めた6条3項を8条に統合すべきといった意見や、8条の中で6条への言及がされるべきとの意見もありました。

■条約の履行(7~10条、クラスター⑤)
・条約の国内履行(7条)に関連して、「良い実践例」を締約国間で共有したいという趣旨の発言が、複数国からありました。
・「締約国会議」や「再検討会議」を定めた9条の重要性を指摘する声が相次ぎました。草案では締約国会議の頻度について「初回は発効後1年以内、以降は原則隔年」となっていますが、これを「最初の5年間は毎年行い、5年後の再検討会議でそれ以後の頻度を決める」といった案が出ました。オランダは、NPTプロセスのエネルギーを損なわないようにとして、本条約の再検討プロセスの「軽量化」を求めました。
・スイスが、条約加盟を検討する核保有国が現れた場合に「特別会合」を開くことを提案し、複数国が賛成しました。
・条約の当初からの参加国は国家予算が潤沢とは言えない国々が多いことから、会議の頻度は、費用負担(10条)との関係でも問題にせざるをえないといった指摘がありました。

■最終条項(11~21条、クラスター⑥)
・「この条約はNPT締約国の権利及び義務に影響を及ぼさない」旨が定められている草案19条について、様々に議論されました。CTBTや他の軍縮条約も含めるべきとする意見がありました。「NPT非加盟国が背を向けないよう削除すべき。NPTとの関係は前文に書いてあるからそれで足りる」との不要論に対し、「交渉に参加していない国々の『禁止条約はNPTを損なう』との懸念に対処する必要があるので残すべき」と反論がありました。
・上とは別の理由から19条を削除すべきとの議論がありました。すなわち、5核兵器国はNPT下で核保有の「権利」を持つという解釈のもとにこれを草案19条の「権利」として捉えたら、禁止条項を全締約国に無差別に適用されるべきという条約全体の趣旨が損なわれる。そうした事態になっては困るから19条はいらない、という声が複数の国から聞かれました。
・武器貿易条約26条のように、他の既存の条約との関係を一般的な文言で規定すれば足りるとの意見が少なくない国から寄せられました。
・オランダが、禁止条約とNPTの間で対立が生じた場合には後者を優先させることを19条に追記すべきだとしました。これに対しエクアドルは、核保有の「権利」があるという核兵器国などのNPT解釈を優先させられるとして、オランダのこの提案に懸念を表明しました。ブラジルもエクアドルのこの懸念を支持しました。

6月17日に行われた「女性の行進」の参加者。Photo: David Field and Eric Espino

2日半の議論を聞いていてひとつ印象的だったのが、3月会期では1回しか発言しなかった、唯一の核兵器依存国オランダが、今回は積極的に発言し議論に加わっていることです。特に、禁止条約に反対する核保有国などの懸念に対応する形で、「NPTとの関係を損なわないように」という観点から意見を述べていることが伺えます。報道記事(共同通信英語ニュース、6月10日付)にもありましたが、まさに「橋渡し役を果たして」おり、日本があたかも「お株を奪われてしまった」かのようです。

第5日午前の時点で、第2会期開幕後の議論を踏まえた前文の改訂案が議長から出されています。また、条約本体(1~21条)に関する各国の修正案を集約した文書も公開されました。今後、条約の全会一致採択を目指して、さらに議論と調整が続いていくことになります。

文責:荒井摂子(ピースデポ)

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