NPTウィーン報告②「核禁止条約はNPTを損なう」のか

ウィーンで開催されている2020年核不拡散条約(NPT)再検討会議第1回準備委員会の報告、第二弾は創価学会の河合公明さんによるものです。
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「この議場には大きな象がいる。禁止条約という象が」(an elephant in the room:大きな存在に見て見ぬ振りをする意)。ウィーンでは、5月2日からNPT再検討会議準備委員会が行われています。その会議に参加する中で耳にした言葉です。

3月にニューヨークの国連本部でスタートした核兵器禁止条約交渉。核保有国とほとんどの核兵器依存国が欠席し、非保有国とのアプローチの違いが浮き彫りになる中、保有国と依存国が参加するNPT準備委員会では、どのような議論が展開されるのか。その点に深い関心を持って議論を見守っていました。

一般討論と核軍縮をテーマとするクラスター1の討論は、思った以上にスムーズに進んでいるように見えました。それはまさに「禁止条約という大きな象」が議場にいるのですが、核兵器禁止条約推進国側もそれを批判する側も、その扱いをめぐり一定の慎重さを保たざるを得ないことによるものではないかと思います。そしてその慎重さは、NPTが果たしてきた役割を、全ての締約国が認識していることの裏返しであると言えましょう。

NPTは核軍縮と不拡散体制の礎石であり、それが損なわれるようなことがあってはならない。核兵器禁止条約は、そのNPT体制を損なうものである。これが核保有国と核依存国の主張です。一方で、核兵器のもたらす人道上の結末を考えるとき、それを禁止することは喫緊の課題である。またそれは、NPT第6条が規定する核軍縮義務の誠実な履行である。その意味で禁止条約は、弱体化しつつあるNPTをむしろ補強するものである。これが非核保有国の主張です。

こうした中で、ウィーンにおける議論の焦点は、核兵器禁止条約がNPTとどのような関係にあるのか。アクロニム研究所のレベッカ・ジョンソンさんの言葉を借りれば、禁止条約はNPTの友なのかライバルなのか。その点に集約されているように思えます。

核兵器禁止条約に反対するアメリカは、5月2日の一般討論で、以下のように述べています

⚫︎NPTは、全ての締約国のに対し50年近くにわたり大きな利益をもたらしてきた。それぞれの立場の違いにも関わらず、我々は皆、この条約が一国にとってのまた共通の安全保障と開発の利益に奉仕して来たことを認識している。

⚫︎真の対話を通じ、我々は永続的なコンセンサスの領域を積み重ねることができる…我々の共通の利益を思い起こすことが、コンセンサスの文化の形成と、優に数十年を超えて我々のためになって来た、コンセンサスによる意思決定を再建する最良の方法である。

⚫︎コンセンサス方式での意思決定を放棄すれば、前進しているかの幻想を生み出すかもしれないが、それは現実ではない。そして幻想は直ちに消え去るものだ。

つまり軍縮交渉におけるコンセンサスの文化を破棄する核兵器禁止条約交渉は、非生産的であるとの批判です。この点は、クラスター1における声明でさらに強く押し出されています。

イギリスは5月2日の一般討論で、以下のように述べています

⚫︎核兵器の禁止は、国際的な安全保障をめぐる環境にも、信頼醸成と透明性の向上にも寄与することはない。

⚫︎NPTに代わるプロセスを構築しようとするいかなるイニシアチブも、NPTを損ない、弱体化するリスクを負っており、国際的な平和と安全保障に悪影響を与えるものである。

ロシアは5月2日の一般討論で、このような主張をしていました

⚫︎NPT関連の会合では、核軍縮は停滞しており、もはや存在さえしないとさえ、しばしば言われている。しかしそれは完全に間違いだ。アメリカとロシアの共通の努力によって、核兵器なき世界への道のりは、少なくとも80%のところまで来ている。

⚫︎NPTが成し遂げた目覚ましい成果には、数千の専門家たちの努力と数千億の資金が費やされている。プロパガンダのためにこの事実を看過することは、不適切であると言わざるを得ない。

⚫︎核兵器禁止条約交渉プロセスを推し進める国々が異なる意見を持ち、禁止条約がNPTを補うばかりか強化することを期待していることを承知している。しかし我々はそのような論理を受け入れることは出来ない。

つまり、そもそも核兵器禁止条約がNPTを補強するというロジックは受け入れないという主張です。これは、核兵器禁止条約推進国に対し、最も厳しい立ち位置を示していると言えます。

これに対し核兵器禁止条約を推進する中心国の一つであるオーストリアは、5月5日のクラスター1で、以下のように述べました

核兵器禁止条約は、

①核兵器が国際社会の安定に寄与するという根深い見方に、挑戦するものである。

②核兵器使用に反対する、法的、政治的規範を強化して、全ての国に安全をもたらす。

③サイバー攻撃やテロリズムといった、新たな課題に対する対処方法となる。

④生物兵器や化学兵器の時がそうであったように、禁止をしてから廃絶するというアプローチは、現実的な取り組みである。

⑤当初において核保有国が参加することがないとしても有益である。

⑥核軍縮の検証や、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約といった、さらなる措置のための議論の呼び水となる。

⑦とりわけNPT第6条の履行に貢献することによって、弱体化が進むNPTを強化する。

このように禁止条約交渉の意義を訴える一方で、禁止条約は、

①戦略的、地域的安定性を阻害するどころか、むしろ強化するものである。

②特定の国や同盟に向けられたものではなく、その安全を阻害しない。

③NPTや核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)に並行するような法を作り出すものではない。

④NPTを弱体化させるものではない。

こうした中で、5月4日のクラスター1における中国の発言は、興味深い内容が含まれていました。

⚫︎中国は、核兵器禁止条約交渉には参加しないことを決めたが、最終的な包括的禁止と完全な廃絶に関する強い支持は変わることはない。中国はこの件について、関係国と引き続き連携を保っていく。

ちなみに議場では、ツイッターを通じて声明に対するコメントや解説が直ちに飛び交うのですが、この発言に対しては、何の反応もありませんでした。議場で聞いていた時におやっと思ったので、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の複数の関係者に尋ねてみたのですが、誰も注目を払っていないようでした。中国の発言の意図と、議場での反応が意味するものは何か。興味深いところです。

このように、これまで核軍縮と不拡散体制の礎石としての役割を果たして来たNPTが、核兵器禁止条約との間でどのような関係になるのかが、大きな争点になっています。

そうした中、アクロニム研究所のレベッカ・ジョンソンさんがタイムリーな記事を配信しています。禁止条約が成功するための条件、禁止条約とNPTやCTBTといった他の条約との関係について、わかりやすく述べています。

NPT and UN Nuclear Ban: Friends not Rivals

以上、核兵器禁止条約に反対する国々の声明を中心に、第1週の動きを俯瞰してみました。

最後になりますが、東京からウィーンのNPTの議論をモニターされている明治大学の山田寿則先生より、これまでの議論に関連する有益なコメントを頂戴しましたので、それをご紹介しながら、このブログを締めくくりたいと思います。

第1に、確かに核兵器の量的削減は進んでいるとは言えるのですが、それをどう評価するかという点です。

この点については、量的削減がそのまま脅威の削減ではないというコメントを頂きました。

今なお約1万5000発と言われる核兵器が存在し、いかなる核爆発も人道上の結末をもたらすものであって、それへの対処は不可能であり、その危険性が喫緊の課題であるという認識から出発して、今日の核兵器禁止条約交渉への道のりが開かれて来ました。そしてその取り組みを支えてきたのが、世界のヒバクシャの声であるということを、常に思い起こさなければなりません。

第2に、そもそも核兵器禁止条約がNPTを補強するというロジックは受け入れないという主張に対し、どのように建設的に向き合うかという点です。

これについては、2010年に合意した行動計画が、今のところNPT締約国間の共通の約束事なので、これを確認することが大切であるとのコメントを頂きました。

とくに、核兵器のない世界の平和と安全を目指すこと、人道上の結末への憂慮と国際人道法順守の必要性の確認、核なき世界に必要な枠組みへの特別の努力などです。共通の議論の土俵という意味では、すべての国にとって強化され削減されない安全という点も重要になります。これらの諸点ついて、核兵器禁止条約は貢献できるということを主張をしていくことが必要だということです。

6月15日から7月7日にかけて行われる2回目の核兵器禁止条約交渉に向け、NPTで浮かび上がってきたこれらの論点に対し的確に応じていくことが、禁止条約の成功のカギを握るのではないかと思います。

文責:河合 公明(創価学会平和委員会事務局長)

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