ジュネーブより⑥:日本の「漸進的アプローチ」――何を語り、語らなかったのか?

5月12日の夕方には、ICANの呼びかけで、核の傘依存・4か国(カナダ、オーストラリア、日本、ノルウェー)の代表部に、「禁止」を支持するよう訴えるデモが行われた。写真は日本代表部前。

5月12日の夕方には、ICANの呼びかけで、核の傘依存・4か国(カナダ、オーストラリア、日本、ノルウェー)の代表部に、「禁止」を支持するよう訴えるデモが行われた。写真は日本代表部前。

ジュネーブでの国連作業部会は5月13日に閉幕しました。ピースデポの田巻一彦さんから、帰国後に以下の報告が届きました。

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公開作業部会が、13日(金)の夕刻に閉会した。
これまでの報告にあったように、大まかに言えば、会議は「核兵器を禁止するための拘束力のある効果的な法的措置」の具体的議論・交渉を今すぐにも開始するべきだ(そのことを作業部会は勧告するべきだ)、という意見と、「時期尚早または新たな法的措置は不要、もしく核兵器国のいないところで議論するのは不適切」という意見の「せめぎ合い」だった。

日本は、いわば後者代表として、NATO加盟国などとともに論陣を張った。5月会期では4度にわたって被爆者が登壇し、核兵器禁止を訴えた。外信ニュースは5月末のオバマ大統領の広島訪問を伝えていた。「被爆国日本」の姿がフィーチャーされる熱気の中で、日本代表部の席のあたりが「別の温度」で支配されていたように感じたのは、筆者だけではないだろう。

「漸進的アプローチ」作業文書
日本が推奨する「とるべき道」は、17か国とともに提出した作業文書WP9「核兵器のない世界に向かう漸進的アプローチ★:ビルディング・ブロックアプローチに立ちかえる」に書かれている。(★政府は「進歩的アプローチ」と訳すが、「漸進的」の方がより適訳だ。)

この作業文書を要約すれば次のとおりだ:

※CTBTの発効やFMCTの交渉などの長期的未解決問題の解決。
※米ロ2大国の交渉による削減の交渉。
※核テロ防止のための国際協調。
などに関する相互に補強しあう多国間、複数国間、二国間的、及び一国的措置を進めながら、国際社会が「最小化地点」(minimization point)に達したならば、次の段階に移る。「最小化地点」とは「核兵器数が<きわめて少ない数>になり、信頼にたる検証技術が確立した時」(WP9・14節)のことである。(何時をその目標とするのか、「きわめて少ない核兵器数」が何発なのかは示唆されない。まさしく「待つ」のだ。)だがWP9は次のようにも付け加える。「最小化地点を座して待つわけではない」、「最小化地点に達するまでには多くの努力が必要である」(同14節)。ではどのような努力をするつもりなのか?と思って読んでもWP9には出てこない、後に触れるWP23で、少し踏み込んだ説明をしたが、具体性にかけることでは変わりはなかった。

メキシコによる批判
このような「漸進的アプローチ」への批判の急先鋒はメキシコであった。メキシコといえば、2010年に日本とドイツの呼びかけで発足した国家グループ=不拡散・軍縮イニシャチブ(NPDI、現在12か国)の一員であるが、14年2月に第2回「核兵器の人道的影響に関する会議」をメキシコ政府が主催してメキシコのナヤリットで開催したあたりから、距離感が生まれてきたように思われる。そもそもこのOEWGの基となった国連総会決議を推進したのもメキシコだった。今回の会議の論争によって、両者の違いが「ここまで来ているのか」と改めて実感された。

メキシコは「漸進的アプローチ」の主張者(つまり日本等)を次のように批判した
●この部屋は、status quo(現状)を守ろうとする者と変えようとする者の二派に分かれている。status quoはここに姿を見せていないごく少数のもの(核兵器国…筆者)を守っている。
●「漸進的アプローチ」には何も新しいものがない。status quoの維持が目標だとしか思えない。彼らの狙いが何なのかを聞いてみたい。
●もし彼らに「現状を変革する」意思があるならば、信頼できる新たな代替案を提案するべきだ。
●誤解のないよう言っておくが、メキシコは「漸進的アプローチ」が提示している措置の(すべてではないが)ほとんどを支持している。

日本の説明
5月9日から13日にかけての討論から、日本代表団の発言を、重複を避けつつまた時系列ではなくテーマ本意でまとめておく。

(1)国家安全保障を考慮した「漸進的アプローチ」
●核兵器国の参加、核兵器国と非核兵器国の協力があってはじめてグローバル・ゼロ(核兵器の完全廃絶)は実現できる。
●核兵器国が参加しての漸進的アプローチ(progressive approach)。遠回りのようでも、これがとるべき道だ。
●「現状(status quo)維持派と改革派」というメキシコが行った二分法は受け入れられない。核軍縮は一直線ではなくジグザグにも進みうる。
●CTBT発効やFMCT交渉開始も「法的措置」に他ならず、OEWGのマンデートに含まれるべき。(注:CTBTは既に採択された条約であり、またFMCT交渉開始に向けた措置はすでに着手されているので、作業部会で「議論」されるべき「法的措置、法的条項および規範」(総会決議70/33主文2節)には当たらずOEWGのマンデートではない、という意見を踏まえて)
●「安全保障」には2つの異なる意味がある。①集団安全保障(collective security)と ②(各国の)国家安全保障(national security)。前者の方が後者より大事だという議論がある。しかし、2つは競合するのではなくどちらを優先すべきという話ではない。2つとも大事。例えば日本が直面する安全保障状況もこの2面性を持つ。
●核保有国の8~9か国がここに参加していないように、分極化が存在している。これを何とかしないと、分裂が嵩じて核軍縮が遅れる。だから我々は分裂を回避するために、OEWGにおける最終文書採択にコンセンサス(全会一致)を要求し続けている。OEWGがこれに失敗すればNPTの信頼性が失われる。

(2)実際的措置:日本作業文書・WP23「核兵器の実際の削減と廃絶のための課題」に触れながら、「漸進的アプローチ」に含まれる3側面について次のように述べた。
●安全保障環境の現実から考えて余剰な核兵器を削減してゆき、それに付随して戦略上の位置づけなどを縮小、さらなる削減をする。
●核保有国の「保有の動機」を一つずつ取り去ってゆく。
●核兵器のない世界の達成と維持のための、信頼性の高い技術的・組織的メカニズムの開発。

筆者の印象をいえば、「この実際的措置」は核兵器国に著しく寛大だ。こんなことで核兵器削減などできるのか?

最終日13日の討論で、日本は「漸進的アプローチ」に言及した報告書を、コンセンサスに基づいて作成するよう議長に要求した。これに対してメキシコは「公正なまとめ」の必要性を強調した。

予想をされたことだが、やはり重要な鍵の一つは日本の手の中にあることを再確認した。私たちはここから進まなければならない。果たして何処にむかって? その手掛かりとなることを願って、ピースデポは、OEWGに作業文書NGO5を出した。今回の参加での実感や得られた反応を踏まえて、考察を深めてゆきたい。

(文責:田巻一彦)

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